【夢猫の魔法】2 

第2章 大切なもの

1

ジリリリリリリ!!

目覚まし時計の音が鳴る。

蝉や蛙の鳴き声。

そのうるさい7月の夏の午前8時。知香は寝ていた。

「知香~。もう8時よ~。起きなさ~い。」

1階から知香を起こす、浩子(知香の母)の声が聞こえる。

「う~ん…。あと10秒…。」

知香はそうつぶやき、また寝始めた。

「知香!」

浩子のデカイ声で知香は目が覚めた。

知香はベッドから降り、すぐ着替え1階の居間へ行った。

「お母さん!『今日は早く起こして!』て昨日散々言ったじゃん!」

「あらお母さんは26回大きい声で呼んだわよ。」

「聞こえないよ!そんな小さい声!」

知香はそう言って、洗面所へ行った。

知香は顔を洗い、歯を磨いて、玄関へ行き、ランドセルを背負い、靴を履いた。

「行ってきま~す!」

そう言ってドア開けた瞬間、浩子が大きな声で言った。

「知香~。ご飯は~?」

「いらない!」

バタン!

そう言って知香は家を出た。

家を出ると、美希(知香の親友)がいつものように、
家の前で立っていた。

「19分57秒。」

そう。美希は知香との待ち合わせ時間から、知香が家を出た時間を計っているのだ。

「やった~!20分切った。」

「ほぼ20分だけどね。」

2人は歩き始めた。

「全く…。6年生にもなって8時起き。中学生になれるのかしら。」

「いいじゃん。別に~。」

2人は信号が赤だったので、止まった。

「良く無いよ。そんなだったら、大人になっても、ちゃんと起きれないよ。」

「いいの〜。いいの〜。それより昨日の宿題の算プの問題解けた?」

「問題って何番?」

「ぜ…全部…。」

「また〜?算数プリントが宿題に出る度にそれ言ってるじゃん。」

「で、解けたの?解けてないの?」

「解けたけど教えないよ。」

「え〜!?」

知香は大きな声で言った。

すると、周りの人がみな同時なね振り向いた。

知香は恥ずかくなり、顔が赤くなった。

「な…なんでよ…!」

知香は顔を赤くしながら言った。

すると、信号が青になった。

周りの人たちが横断歩道を歩き始めた。

その周りの人たちにつられ、知香たちも歩き始めた。

「『なんで』って言われても…。私が知香に毎回宿題の答えを教えて、先生に私も怒られるんだよ。」

「今日で最後にするから!!」

「それ、毎回言ってる。」

「いーじゃん。この3日間はチクる奴が居ないんだからさ。」

「この3日間」とは美希が知香に宿題を教えたことをチクる奴が風邪で休んでいることである。

さらに、知香が言う「チクる奴」とは、知香たちの親友である、「雅美」のことである。

ちなみに、今日は3日間の内の、2日目である。

「だからといって、もう今日からは見せないよ。」

「え〜!?私がヤマセンに怒られていいの?」

「ヤマセン」とうのは、「山田先生」といい、知香たちの担任である。

「どっちみち怒られるんだからいいじゃん。」

「え〜!?そんなぁ〜。」

2人が話している間に学校に着いた。

「うわ〜。着いちゃったよ〜。」

そして2人は校舎に入り、2階に上がり、6年1組の教室に入った。

2人は席に座り、ランドセルから教科書やノートなどを出し机の中に入れた。

その後、2人はランドセルをロッカーに入れ、もう一度席に座った。

すると、チャイムが鳴った。

知香は美希を睨んだ。

しかし、美希は知香が睨んでいることを知らず、本を読んでいた。

ガラッ

知香はドアが開く音に驚いた。

「起立。」

今日の日直が言った。その声にクラス全員が席から立った。

「おはようございます。」

日直がそう言うとクラス全員が「おはようございます」と言った。

「着席。」

日直がそういうと、クラス全員が着席した。

「はい。じゃあ今日の宿題を集めるから、
後ろから回しなさい。」

知香はドキッとした。

「森中。今日も宿題してきたか?」

そう。山田先生は昨日、雅美から何も聞いていないので、なんにも知らない。

つまり、昨日は知香は宿題をやったと思い込んでいるのだ。

「どうした?返事をしろ。もしかして、また大山に見せてもらったんじゃないだろうな。」

「先生、今日は見せてません。」

美希は山田先生が知香に怖い顔で言った後、すぐに美希が言った。

「ということは、やってきたのか?」

山田先生は優しい顔で言った。

「や…。」

知香は小さな声で言った。

「や?」

山田先生は首をかしげた。

「やってません…。」

知香は下を向きながら言った。

「お前は、またやらなかったのか!」

山田先生は優しい顔から、怖い顔に変わった。

「廊下で頭冷やしてこい!」

知香は教室を出た。

みんながクスクス笑い声が聞こえる。

知香は自分のことで笑われているのだと思った。

別に知香は反省していない。日常茶飯事のことなのだ。

2

その下校中、知香は美希と一緒に帰ったがお互い口を聞かなかった。

次の日。知香はいつものように、浩子に起こされ、家をでた。

しかし、家を出ても美希は待っていてくれはなかった。

学校に着くと、美希はもう学校に来ていた。

その次の日もまた、その次の日も知香は口をきかなかった。

「知香〜。美希と口聞いてないけど、どうしたの?」

登校中に雅美が問いかけた。

「別に…。」

「あ〜。美希もそう言ってた〜。」

「ふ〜ん。」

「明日から夏休みだよ。ずっとそんなんでいいの?」

「だって、みっちゃんが悪いんだもん。」

「あ〜。分かった!宿題を見せてもらえないことで怒ってるんでしょう?」

「うん…。」

「そんなの知香が悪いに決まってんじゃん。」

「でも…。」

「『でも』?」

知香は言い返せる言葉がなかった。

その晩、知香は夏休みの宿題をやっていた。

「あらぁ。知香が宿題をしてるとは、珍しいわね。」

浩子は晩ご飯の支度をしながら言った。

「ん?何かザワザワしてるわね…。」

家の中まで人がざわついている声が外から聞こえる。

「ちょっと、お母さん外出てみるわね。」

知香は浩子の言葉に返事をしなかった。

浩子は外にでると、美希の家が火事になっているのが気がついた。

「なぜ火事になったんですか?」

浩子は周りの人にか火事の原因を聞いた。

「さぁ?分からないわ。美希ちゃんはずっと、留守番してたらしいから…。」

「消防署には…?」

浩子は問いかけた。

「あぁ。連絡したわよ。けど、全然こないわねぇ。」

浩子はそれを聞いた瞬間、美希を助けようと、美希の家に入った。

「ちょっと。森中さん!あなた、燃えちゃうわよ!」

女性はそう言ったが、その頃には浩子はもう家に入っていた。

一方、知香はそんなことも知らずに、夏休みの宿題を進めていた。

「遅い…。あれから、10分も経ってる。」

知香は気になって外に出た。

すると、ちょうど救急車が戻っていくのをみた。

「ち…。知香ちゃん?」

近所の女性が知香を見た。

「何があったんですか…?」

「実はね…。美希ちゃんの家が火事になって、それを知香ちゃんのお母さんが助けに行ったらね…。」

女性は言いにくそうに言った。

「死んだのですか…?」

「いや、知香ちゃんのお母さんは意識不明の重傷って聞いたから、生きてると思うよ…。」

「み…みっちゃんは…?」

「え…。えーと…。美希ちゃんは…。」

女性はとても言いにくそうだった。

「し…。死んだの。」

「え…?」

その言葉を聞いた瞬間。知香の頭には「後悔」という言葉しかなかった。

知香は、周りの人のざわつきから逃げるように、家へ入った。

知香は悲しすぎて涙すら出なかった。

知香は和室へ入り、タンスを開けた。

「あった…。」

知香は昔、祖母の幸子に教えてもらった、「マジックワールド」のことを思い出し、その地図を探していたのだ。

知香はタンスから丸まった地図を取り出し、地図を広げた。

「結局、おばあちゃんは何にも、教えてくれなかったなぁ…。」

知香は地図をじっとみた。

「マジックワールドへ行ったら、人生変わるかな…。」

知香は地図を裏向けた。

「ん?」

なんと地図の裏の右の下の隅には何か文字が書いてあった。

「上を向いて一番大切なもの一つ言いなさい。」

そう書いてあった。

「きっと、おばあちゃんが書いたんだろうな…。」

知香は呟いた。

知香は上を向いた。

「私の大切なもの…。」

知香は黙り込んだ。

「私は…。私は…。」

知香は自分の大切なものを考えた。

美希や雅美や浩子のことをいっぱい考えた。

「私は、全部大切!!私の周りにあるもの全てが大切!」

知香は大きな声で言った。

「だから…。私をマジックワールドへ連れて行ってください!」

そのとき眩しい光が、知香を包んだ。

「まっ…。まぶしっ…。い…!」

7月の22日。猫が嗤っていることを、知香はまだ知らない。




続く